語呂がいいとかぞろ目だとか、そういうわけではない。
何か特別な国民行事があるわけでもない。というか寧ろ数字としては関連づけづらくて覚えにくい。
それでも二十日を過ぎたあたりから、忌々しく脳裏を霞めるのは今日のこと。
六月二十六日、腐れ縁も甚だしい長髪野郎の誕生日である。




これから





「ハッピバースデートゥーミー」
昔の話をしよう。いつもなまか、あいや仲間のことを優先的に考えている所為で手前のことなんぞ二の次で、誕生日さえ誰か他の人間に指摘されるまで気づかない始末。
毎年の指摘役はたいがい俺の役目であり、自分の誕生日ぐらい覚えてろ馬鹿、と説教してやるのも俺の役目だった。
ずいぶんとまぁ、昔のことだ。

「ったく何なんだよ、どこの欧米人のホームパーティー?大体何で河原?」
「欧米人じゃない桂だ。このような会合はな、家に籠もってやるよりも河原でやるのが粋なのだ」
「いや会合じゃねぇしこれ。ただの簡易なお誕生日会だろーが完成度低すぎんだろあまりにも」

そう言いながらも俺はその場に佇むどでかいホールケーキを貪った。人の誕生日ケーキは不味い。特に自分で自分のために用意した誕生日ケーキは最低だ。

「あっ銀時貴様、ホワイトチョコのお名前プレートは残せ!それを食うのは主役の特権だぞ!」
「うっせーよ!おめぇいつから攘夷党から甘党になったんだ!何だ、糖分王か?糖分王になりたいのかヅラフィ?そんなら俺の屍を越えていけえええ!」
「ヅラフィじゃない桂だああああ!!望むところだ、糖分王に俺はなる!!」

そう言って桂は俺の糖分にかぶりつこうとしてきたので、俺は例によって思いっきり足蹴にした。
桂は勢いよく雑草の海へダイブしていった。

それにしても、何だか妙な気分だ。此奴の誕生日をこんなに馬鹿みたく愉快に祝っているなんて、考えてみれば初めてかもしれない。
村にいた頃はケーキなんてなかった。戦争でドンパチやってた頃は本人が忘れていた。
今の桂には、自分の誕生日を祝ってやれるぐらいの心のゆとりがある。恐らくそんなもの、今まで此奴は持ったことがなかっただろう。
平和になった。桂小太郎二十ウン歳、やっと人間らしくなった。

「ほらよ」

全く貴様という奴は、人のものに簡単に手を出す癖は本当に治らないようだな、だから貴様はいつまでたっても社会に順応できんのだなどとぶつくさ
説教じみた負け惜しみを呟いているパーティーの主役の口に、「こたろうくんおめでとう」と書かれたプレートを突っ込んだ。

「あまっ!き、貴様の精液より甘いぞ」
「ほぉ、誕生日が命日ってことでいいんだな?」
「いだだだだ離せ!今日は俺の誕生日だぞ…いだだだ!」

一口かじっただけでお名前プレートを放置した桂にアイアンクロンをかけると、ばたついて嫌がった。
こいつは子供か。歳を重ねるごとに退化してるんじゃねぇだろうな。
それにしたって、祝いのひとつにしろ誕生日おめでとう、これからもよろしくなんて拙い文でうまくいくほど俺たちは単純な関係じゃない。
それがいつだって、厄介だ。
湿気を含んだ生ぬるい風が川から流れて、ふと初夏の匂いがした。
この時期になると嗅ぐ匂いに懐古が染み出る。もう何度も奴の隣で鼻孔に吸い込んでいる匂いだ。
桂は昔と相変わらず長い髪を揺らす。またもや妙な気分。身体ごと遠い過去に引き戻されたような気がした。

「昔も、河原でこうやって過ごしたな。おまえはあの頃から哀しいほど変わっていない」
「変わってくれるなって言ったのは誰だった?」
すると珍しく顔を顰めて、古い話を持ち出すな、と言った。
手近にあった緑茶を紙コップに注いで一気飲みしたところを見ると、相当気恥ずかしいんだろう。
全く、素直じゃないねぇ。俺も此奴も、昔から。

「エリーのやつ遅いな、買い出しに一体何時間かかってるんだ」
拙い祝いの文句なんか陳腐すぎて口にも出したくない。言葉ひとつで十数年分の何が伝わるとも到底思えない。
しかしそれ以外に今、言うべきことが見あたらない。

「なぁヅラぁ」
「ヅラじゃない桂だ」
今日は六月二十六日。此奴の誕生日。過去の話じゃなく、これからの話がしたい。


「おめでとうございます。これからもよろしく」










アニメのあまりの銀桂っぷりにうっかり触発されました。すごすぎる…何だったんだあれ…
なにはともあれ、誕生日おめでとう桂さん!

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