記憶の底の更に奥に、封じ込めて仕舞いたいものは戦争の日の思い出。
だと云ったらきっとお前は怒るんだろう。お前は俺の棄てた過去を未だ生きている。
お前は変わらないな銀時、そう云うその瞳が非道く乾いて見えるのだ。今こうして子供二人と犬一匹とお前と俺とで仲良く何気なく日々を送れるのは
俗に謂うしあわせのかたちであろうよ。
お前を狂うほどに掻き毟るようにして抱いた、此の腕に此の胸に閉じこめて体温を食べた、それはもうずっと前のこと。
ずっとずっと前のこと。昔のこと。こんなにも時間は経って、あのころ憂いた泪ももう乾いてしまった。あのころ見た夢も醒めて仕舞った。
桂、変わって仕舞うことが怖ろしいかい。俺が隣にいないことにはまだ慣れないかい。
俺には沢山の隙間がある。入り込んできて構わないんだ、お前は。
そんな優しい瞳で俺を抱かなかったじゃないかお前は。
そう謂うお前の顔がとても哀しい。どうか亡霊にならないでほしい。
俺達は何処にも戻れないのならば進むしかないのだと思う。その手を委ねて呉れたら俺もお前にやっと委ねることができるのに。
俺は棄てたかったわけじゃない。拾いたかったのだ。
一人で凛と歩いていけるお前の、桂の零れた感情まで総て拾ってやりたいと願ったのだ。
お前は鬼を拒まなかったけれど、俺の慕情は。
嗚呼総ては今さらであってほしい。過去を愛せずとも今さらの話であってほしい。
俺が怪物であったこと。お前の血がおぞましいほどに冷たかったこと。失いつづけたことも奪いつづけたことも泣くことさえ見捨てて紅い雨を浴びたあの日々
ぜんぶ。ぜんぶ。
(なぁ桂俺は非道く身勝手で女々しいけれど)
現実の甘さだけをお前と紡ぐことは不可能なことなのかな。昔の鎖がお前をお前たらしめているということなのかな。
それとも俺は断ち切ったつもりでいるだけで、本当はまだがんじがらめなのかな。
だけどほら、あの空はもうあんなにも蒼いんだ。灰色の雲はほらもう何処にも見あたらない。
うちにおいで、桂。次ぎに俺がふらりと消えるときは、きっとお前も一緒だから
銀さんから桂への独り言
銀さんはこんなややこしい男じゃないやいっ!