6
本音を言えばすごく怖い。
女の子でも初めては痛いと聞くぐらいなのに、俺は男で、しかも尻の穴に性器を捩じ入れるなんて、想像しただけでその部分が痛くなる。
だけど、無理しているとかそういうわけでもない。
銀時と繋がれることは、きっとこの世で一番素晴らしいことなんだと思う。
大好きな相手と、一瞬でも身体という境界線を破ることができるのだ。
想像もしていなかったことだけど、それは素晴らしいことだって銀時と出会って思えるようになった。
だから、大丈夫、そう思いながらも塗り込まれたローションのひやりとした感触に思わず腰が引けてしまった。
「ひっ、つめたっ」
「あ、ごめ、大丈夫か？」
「あ、ああ、すまない…」
銀時も、やはり何時もより数段余裕がないようだった。
普段は経験も多い銀時がリードしてくれて、口淫だって銀時から提案されたことだ。
でも今は、俺の一挙一動に敏感に反応している。余裕のない銀時を見ているのも、少し愉しかった。
しかし、銀時の指が俺の体内に押し入れられると、一気に俺の方の余裕が零になった。
「いッ…！」
「い、いたい？ごめん、一旦抜く？」
「……平気、だ…っ」
平気ではなかったが、もう一度出し入れされる方がきついと本能が判断した。
すると、太い指が更に奥へと入り込む。
ぐっと耐えて、大きく開いた足のつま先に力を込め、何度か深呼吸をする。
拍を置いて、銀時の指が前後に出し入れされ、ぬちゃぬちゃと聞いたこともないような淫猥な水音が響いた。
羞恥で狂ってしまいそうだ。でも、その前に痛みの隙間から妙な感覚が溢れ始める。
「ン…っふ、ン…っっ」
自身に再び熱がこもり始めるのを感じた。
ああ、いい、これならいけそう、と思考の隅で思っていたところで二本目の指がぐっと入り口をこじ開け、侵入し、同じように動き始めた。
「うあっ」
「…平気か？」
「ん…なんと、か…っ」
二本目の指に慣れるのは早かった。明らかに、快楽が痛みに勝り始めている。
俺は天井を見たり、あるいは眼を閉じたりして、荒くなる息を制止しようという考えも起こらぬままに為すがままにされた。
「…いく、よ」
指が抜かれ、銀時が俺の足を抱える。怖い、怖い、と心臓が叫んでいる。
ぎゅっと瞼を固く閉じ、その瞬間を待っていると、銀時が俺の瞼に軽くキスを落とした。
「…ありがと。ごめんな、小太郎」
下の名前で呼ばれたのはこの時が初めてで、俺は吃驚してしまった。
きょとんとしていると、体内に先ほどよりもずっと体積のあるモノが押し入ってきて、「ひゃっ！」と素っ頓狂な声が出てしまった。
「ン…んん…」
じわじわと、少しずつ侵入してくる其れの形状を感じながら、圧迫感と痛みに歯を食い縛る。
生理的に、涙が浮かんでくる。
銀時は俺の目尻や額にキスを落としながら、ゆっくりと腰を進めて、そして全てが俺の中に入った。
何だか自分が銀時の容れ物になったような、妙な感じ。一体感、と呼ぶべきなのだろうか。
俺も銀時もはあはあと荒く息を吐き、ただ互いを感じようとする。
この世の全ても忘れて仕舞うぐらいに、俺は銀時を感じようとする。
「あっ…はっ」
控えめに銀時が腰を揺すり、その度に少しずつ快楽の波が戻ってくる。
俺は銀時の首に手を回して、開きっぱなしで軋む足の骨と、出入りする強烈な快楽と異物感と痛みを五感全てで感じる。
皮膚も隙間のないぐらいにくっついて、今が一番銀時に近いんだと思うと、甘い寒気がした。
「あっ…！あ、ぅあ、ぎん、ときっ、ぎんときっ…！」
「…好き、こたろ…」
好き、という甘美な響きと、呼ばれ慣れない下の名前にぐっと熱がまた沸騰していく。
どんどん、高まっていく。浮かぶ言葉は好き、銀時、のその二言。
あとは全部、機能が停止して、初めて体験する色んな感覚が押し寄せて、何も考えられない、ただすごく熱い。
「あぁああっ…！」
どくんと一度脈打って、俺は果てた。
銀時も真似をするかのように、ほとんど同じタイミングで達して、ぱたりと力尽きたように俺の首もとに倒れ込んだ。
「……どー…だった、だいじょぶだった？」
「……ああ……お前は？」
「すっげー…ヨかった……」
「うん…」
息を整えたあと、何だか可笑しくなってはは、と二人して笑った。
それから、俺たちはキスをして、もう一度順番に風呂に入った。
アイスのことを忘れていて、すっかり溶けてしまっていたのでもう一度歩いてコンビニまで行った。
今度は手を繋いだ。
「よぉ、久しぶり」
前と同じコンビニで、俺はまた高杉に会った。俺はもう音楽雑誌は読まない。
銀時の載っている雑誌は家に全部あるし、もうインタビューは嫌だ飽きた、何か新鮮味のあること言えよみたいな顔されるし、
こっちだって何か新鮮味のあること聞けよって思ってるっつーの、もうやだヅラなんか考えてーと毎日電話で愚痴を聞いているからだ。
「久しぶりだな。今日は家は無理だぞ」
「だからこないだは悪かったって。ちょっとイラついてたんだよ」
俺はスイーツコーナーを隅から隅まで物色しながら適当に受け流した。
マンゴーの商品が多いが、イチゴの方が確実だな。やはりいつものイチゴショートにしよう。
「で、その後どうなった？…って、聞くまでもねぇか」
高杉は俺の左手を見て、ふっと笑った。
銀時に貰った誕生日プレゼントが、高杉と同じように、薬指に光っていたからだろう。
俺は同じようにふっと笑んで、「おかげさまでな」と言い、レジに向かった。
ふと振り返ると、御菓子売り場にいた金髪の女の子に「早く選べよ」と急かしている高杉が見えた。
彼女の薬指にもまた、指輪が光っていた。
「待ったか？」
「おせーよ。どんだけ悩んでんだおめーは」
「貴様のスイーツに費やした時間が大半だ」
コンビニの前で煙草を吸う銀時は、白髪頭が目立たないようハットを被っていた。
まだデビュー仕立てのミュージシャンなのに、白髪天パはあまりに人に覚えられやすく、しかもこのコンビニにはでかでかとライブ告知のポスターが貼ってあった。
「ん」
「ん？」
銀時が徐に左手を出した。
「手ぇ」
「ああ、そうか」
俺はその手を直ぐに繋ぐことにまだ慣れない。
銀時の左手の薬指にも同じ指輪があることにも、まだあまり慣れていないが、
慣れない儘の方が見ていて幸せになれる回数が多いかもしれないな、と繋いだ左手を見て歩きながらそう思った。
ふげっ…何このひどい話…
とりあえず終わりですーまあよく一ヶ月もずるずると
お付き合いいただいてありがとうございました！