※即物的エロ
桂の家の匂いが好きだ。
新築独特の桧の佳い香りがする、とかじゃあないけど。
桂の身体の匂いと同じ匂いだ。ほんのり甘くて、透き通るような温かな。
香りというものを言葉で表現するのはひどく難しい。(それが出来たらつまり、桂という存在を言葉で表現できるってことなんだろうか)
今日は何となく桂のマンションに行くことになった。俺は久しぶりにバイトが休みで、従来なら一人暮らしの俺のきったないアパートに行くのだけれど、
まあとにかく何週間かぶりの桂の住んでいるところにこうしてやって来たのだ。
俺が履きつぶしたスニーカーをごそごそ脱いで、玄関の隅に寄せている間に、桂は先に奥の居間に入っていった。
いくら気持ち悪いほどいつも一緒に居る桂の家とは言っても、やはり他人の家というぎこちない空気に身を少し強張らせる。
もう何回訪れたか知れないというのに。
居間に入ると、相変わらず部屋はきっちりと掃除が行き届いていて桂らしかった。
母子家庭の桂家では、仕事に忙殺されている母親の代わりに桂が家事全般を担っている。
そのせいで、多少インテリアには桂の趣味が滲み出ていて、棚やテレビの上にステファン人形が数匹並べられている。
桂のことはおおよそ理解できるけど、これだけはどうしても克服できない難点だ。
「銀時、何か飲むか」
「や、だいじょーぶ」
「いちご牛乳があるぞ」
「…じゃ、もらうわ」
自分はいちご牛乳なんて甘いもの絶対好まないくせに、こいつの家の冷蔵庫には必ず500ミリリットルのパックでいちご牛乳が冷やされてある。
妙な話だけれど、図らずも顔がにやつきそうになってしまう。
ほら、と差し出された薄桃色の液体を咽に流し込んでいる間、何気なく桂を見つめる。桂は食卓椅子に座り、緑茶を口に運んでいる。
真っ黒で細い、女よりも綺麗な髪は今日は下ろされていた。二日に一回ぐらいのペースでひとつに結わっていたりするんだが、
俺は断然下ろしているときのほうが好きだった。別に理由なんてないが、髪がもたらす陰影やコントラストみたいなものが微妙にあって、
それが創る雰囲気が好きなんだと想う。
「…銀時、座らないのか?」
いつまでも立ったまま自分の方をじっと見据えられて、桂はいたたまれなさそうにそう聞いた。
どうしてだか桂は、長時間顔を見続けられるのが苦手だという。
そうされるのって、綺麗な顔の青年の性だと想うんだが。俺は残念ながら桂の顔や身体のひとつひとつのパーツを眺めるのが趣味みたいなもんなので、
いくら桂が苦手でも止めてやることはできない、ごめんね桂好きだよ。
「…ヅラぁ」
「ヅラじゃない桂だ」
「じゃあ小太郎」
ぴく、と桂の肩が大袈裟に跳ねる。無理もないかな、俺が下の名前で呼ぶのは特別なときだけだから。…特別って言っても、毎日シてることなんだけど。
好きだ、なんて想っちまったからもうスイッチ入っちゃったよコレ。もっと近くに行きたい、触りたい。
嗚呼若さ故の蒼き衝動、なんちゃって。
桂の背後に回り込んで、そわそわしている桂の細い肩を後ろから抱く。軽く力を込めて、耳に軽くキスをする。
はは、もう赤い。毎日飽きるほどシてるのに、慣れないもんだね。
「…っ銀時っ、」
咎めるような声で名前を呼ばれるだけで、下半身がむずがゆくなる。れっきとした男の、低めの声なのに不思議なもんだ。
まあ俺みてーなの相手に赤くなる此奴の方がどうかしているのかも知れない。
でも、此の瞬間にモラルだとか人目だとかは別世界のお話。俺と桂さえいれば世界は良好に機能できるのだ。
こうなったきっかけとかいきさつとか全部忘れてしまったけど、もう俺は桂から離れられないし、桂も俺から離れられない。
そう、もうぜんぶ手遅れなのだ。
「…こたろ、シよ?」
「…っん、うん…」
耳たぶを甘噛みしながらねだると、控えめな了承が喉元から漏れた。ちゅ、ちゅと乾いた唇を濡らすように啄むと、
鼻から抜けるような甘い吐息が聞こえて更に熱が膨張する。気が付くと桂の両手は俺の背中のカッターシャツをぎゅっと握っていた。
蒲団を敷くのももどかしいので、テレビの前の小さなソファまでゆっくり桂を導く。
黒目がちな両目は存分に潤んでいて、その水晶体は俺だけを映していた。
桂を座らせて、ベルトをわざと乱暴にこじ開ける。でもファスナーは苛立つくらいにゆっくりと開けてやる。
じぃ、という音すら何処か背徳的。其れを楽しめる俺達は、本当にイカれちまっている。
既に少し硬くなっている桂の自身を、これまたステファン柄のトランクスの上からつい、となぞってやると、桂の腰がぐっと引ける。
少しずつ指圧を強めながらその形状を確かめるように触れる。熱い塊が、確かに其処にある。
いのちってやつを痛感する瞬間だ。現代を生きる若者にはなかなか欠如してるんじゃないだろうか。
「もっ…ぎん、と、き…っ」
焦らすな、とその声が、上がった息が言っている。呼び方だけでイヤってほどにわかってしまう。
「まだだめ」
出来るだけ紳士的な声で囁いてから、布越しに唇をつけて更に愛撫を加える。俺の唾液でトランクスが濡れて、少し濃い青色に変色していく。
「ッひゃんっ」
じわじわと燻るような快感を、桂の感じる箇所全てを熟知した俺の唇はぎりぎりの境界で引き出し続ける。
強すぎもしない、弱すぎもしない。桂が貪欲になるそのラインの一歩手前で、俺は駆け引きを続けていく。
「ンはぁッ…、んン、はぅっ」
扇情的な桂の声に誘われて、舌先で裏筋を緩慢に辿りながら上目遣いで桂の顔を見た。
恥ずかしそうな、でも気持ちよさそうな、凄くイイ顔で俺を見下げる。
目が合うと気まずそうに顔を背けた。
「きもちィ?」
「…ぎん…ちゃん、とさわっ、てくれ…」
お願いされてしまったので、仕方なくトランクスをずり下げる。直に先端をぺろ、と舐めてやると、一際高い嬌声が上がった。
先走りでぐじゅぐじゅになった桂を、やわく扱く。桂は快感をたぐり寄せようと、恐らく無意識に自ら腰をくねらせている。
「あっ、ぁアっ…!」
水音が不作法に聴覚に入り込み、桂は羞恥に、俺は高揚に身体を紅く染める。
桂は眉を八の字にして、堅く目を瞑って悦楽の海へ溺れないよう必死に堪えている。
それでも這い出る喘ぎは艶めいていて、絶品そのものだ。
前への刺激を強めてやりながら、後ろへと指を這わせ、浅く突き入れる。
急に大きくなった刺激にびくんと大きく背を仰け反らせ、桂は両膝を摺り合わせようとする。
「はゥんッ!や、だ、めッぇ、や、ァっ!」
「うそ、だめじゃないでしょ?」
「アぅあぁっ、ぎッん、…!もぉ、らめ…ッあァッ!!」
限界が近そうな桂の張り裂けんばかりの自身を不意にきつく握りこむと、内部できつく収縮が起こり、どくんと白濁を吐き出した。
俺が顔に掛かった桂の精液をぺろ、と舐めると、「す、まない…」と今度こそ死にそうなぐらいの羞恥に顔を染めて謝った。
「小太郎が謝ることじゃないよ」
「…汚い…ごめん、銀時の顔汚して…」
「汚くねーよ。俺これ大好きだもん」
にかっと笑ってそう言うと、馬鹿っ、とまだ上がった息のままで怒られた。
「…銀時、も、そっちいい…」
そっち?と一瞬怪訝に想ったが、直ぐに既に二本入り込んでいた指のことかと合点がいった。まだ殆ど解せていない其処は、灼けるように熱い。
「もう、ほしぃ…」
そう言う桂を見ながらひどく興奮するのを感じる反面、すっかり大胆になっちまったなぁ、などと感慨深くもなったが、正直に言って俺のもヤバい。
質量を増してかさばった俺の息子は、次のステップの快感を既に知っていて、さっきからせがみっぱなしだ。
指を荒々しく引き抜いて、同じぐらい荒々しく自分のベルトもズボンもトランクスも取りさらった。
余裕のない俺は力任せに桂を押し倒して、その華奢な身体の上にのし掛かる。
全く、身長は少ししか変わらないのにどうしてこうも体格差が甚だしいんだろう。
合図をする暇なんてなく、桂の中に押し入ると、桂が少しだけ眉を顰めた。
痛いのかもな、と頭の片隅で想うものの、理性の制止なんてとうに許容範囲外。
ホント今の俺って野獣みたいだ。
「う、んッ…ん…ッくぅ…!」
「…すげ…」
食いちぎられそうなぐらいに締め付ける桂の内壁はひどく気持ちよくて、今すぐにでもイけそうなぐらいだ。でも、
「ッぁ、ぁぁうンッ!っぎ、ん…!もっとぉ…ッ」
ああもう、もっとなんておねだりされちゃあ仕方ない。俺も男だ。
好きな奴を満足させてやれねぇでどうする、そう想って一旦ぎりぎりまで引き抜いてから、胃に届きそうなぐらいまで自分を捻じ込んだ。
それを何度か繰り返すと、いよいよ桂も俺も、気が触れそうになってくる。
「ふあッァっやぁっ、ぎ、とぃッ、すご、ぁついぃッ…っ!」
「ん…すげぇ…こたん中ヤバい、あっち…」
自我を見失ったように際限なく喘ぐ桂を見ていると、このまま地獄まで堕ちたって気が付かないんだろうな俺たち、って本気で思えてくる。
だって前後にめちゃくちゃに動いてるし、ちょっとやそっとの揺れじゃ絶対気づかない。
それに地獄は熱いって聞くけど、今より高い熱はどこにもないからあっちの業火なんざ感じない。
「あ、あ、あ、ア….っ!ぎんと、きぃ…っ!」
「…こたろ、声聞かして、もっといっぱい喘いで、」
「う、アぁんッ…!ひンぅ、す、き、ィっ、ぎン…」
「ろ…小太郎、愛してる、…っ」
強い力で締め付けられて、俺はあっけなく桂の体内に吐精した。桂が二度目の絶頂を迎えたからだ、と真っ白な頭でぼんやり想う。
桂は涙を流しながら、切れ切れになった息を整えている。それを見ると非道く愛しくなってきて、酸素を求めている桂に、代用品として俺の舌を差し入れた。
そして当然のように絡ませていると、直ぐにイったばかりの息子が桂のナカで成長し始めるのを感じた。
勿論、当の桂も勘づいたらしい。荒く呼吸をしながらも俺を軽く睨んでくる。
「こたろ、…足んないよな?」
すかさず耳元で、甘く低く囁いてやると、とろんとした瞳が返ってきたので遠慮なく額に口づけを落としてから、律動を再開した。
嗚呼、若いって、蒼いって何て素晴らしい。
だって地獄も天国も、俺達は一緒くたに持っているんだから。
やっすいBLCDみたいな話ですな
杉田×石田のBLCDが聞きたいです先生!