耳鳴り
The Roaring.
耳鳴り!
断っておくがそこからの記憶が俺には曖昧にしかない。
俺が今ようよう静かになった紅い空の下で反芻しているのは記憶と呼ぶよりは残像といった方が正確かもしれないのだ。
怒号と意味を為さない嬌声にも似た掛け声(闇雲に声を出すと士気が上がるのは人間も向こうさんも同じらしい)
そして命が踏みにじられた瞬間の悲鳴そいつらが波になり渦になり囂々という唸りになって何かそら恐ろしい世界を創り上げ、
そしてあっという間に潰れてしまったその狂気の帝国のど真ん中で俺はそれを名残惜しむかのようにして思い出している。
瞳に見えていたのは一体何だったのか、砂埃の所為で黄土色の印象しかなく、俺は本当に敵を斬ったのだろうかと訝しんでもみたくなる。
だが右手に翳された鈍色の日本刀には得体の知れない肉塊がぶら下がっていてぽたぽたと朱い汁を滴らせている。
大きく一振り、するとどこかへ飛んでいった。
びちゃという着地音からして大して遠くへは行っていないだろう。
見渡せば辺りは屍体の山だった。もっとも、「死んでいる身体」というもの全てをそう呼ぶのだと定義づけるのならば、の話だが。
只の肉の塊があちこちに横たわっていて、精肉工場みてぇ、と感じた。
堪らないのはこの臭いだ。誰かもう火を放った。肉と屍たちは是を以て灰になっていく。
土に還るだ風になるだ色々言い回しはあるが実際そうだったらどんなにいいかねぇ。死ぬというのは酷く醜いものであるのに。
だが俺にタナトスがないわけではない。幾ら敵を殺して白夜叉だ何だと謳われようとも、静寂には弱い。
静寂に閉じこめられると衝動的に自分の首をかっさばきたくなる。
何故かは知らない。ああ、特に月は苦手だ。皮肉にも今夜は満月のはずだ。
遠くのほうから生き残った人間たちの声が微かに聞こえる。だが直ぐに向かう気にはなれなかった。
屍の中に閉じこめられていると悦楽感が全身を駆け抜ける気がして好きだった。
意識が飛ぶほど殺りまくった日は殊更だった。死者への優越とでもいうのだろうか(冒涜以外の何物でもない!)
しかし是がないと明日から生きていけないというのも事実だった。
いつからかしらない。戦の始めは、日々死んでいく仲間が不憫で何もできなかった自分に腹立たしくなって、
戦を敵討ちと称した結果日に日に殺した敵の数が増えていった。
その魂を吸い取るみたいにして俺は更に強くなっていき、仲間も敵も俺を白夜叉と恐れるようになり、そして日毎何も感じなくなっていった。
今はこの有様。身体中が化け物みたいに未だ足りない、未だ足りないと叫んでいるのが否応なしにわかった。
血が沸き熱が籠もる。飢える。
もしも戦いを止めたら俺はまた正常な価値観に戻れるのだろうか?
人殺しはいけないと胸を張って言える精錬潔白な人間に?
自信はなかった。
「銀時?」
名を呼ばれ振り返ると、青白い顔に固まって茶色くなった血のこびりついた女のような男が心配そうに此方を見ていた。
否、怯えているようにも取れる。
「…今日はもう撤収だぞ」
「知ってるよ」
「戻らないのか?」
桂は細い眉を顰めたまま問うた。桂の眉の名に相応しい其れは戦場にはあまりに似つかわしくない。
しかしそれを言うならいやに眩しい黒く長い髪の方が。
立ちつくしたまま返答もせず自分をまじまじと見つめる旧友に、桂は不審感を募らせているようだった。
睫が伏せられて陰を作った。其れはどこかひどく扇情的だった。
さっきからの熱も相俟って、触れたい、と思う。
だが触れたいというよりももっと適切な言い方があると漠然とだが思う。
そういえば昨夜も月光に塗れながら同じ衝動に突き動かされた。
それ即ち桂を嬲り続けることに繋がっていく。
さんざ生物をぶった斬ったあとでロゴスも何もありはしない。
其れは昨日でも一昨日でも恐らく明日でも同じことで、勿論今こうしている瞬間もそうであるのだ。
汚れた俺達は灰色の世界のなかで対峙していた。
俺が白なら奴はまごうことなく黒であり、(その黒を俺の白濁したイニシアチブで汚すのだ)その二つの息をしている個体が立って居るのは
黒でもなく白でもないグレイの世界なのだと思うと広がる視界一体がパネルの中の風景画のように思えた。
遠くの方の仲間の声はいつのまに止んでいた。皆引き返したのだろうか。俺達もいち早く此処を立ち去らないと直ぐに敵に囲まれ、
串刺しにされて食われるだろう。
頭ではわかっていても身体が冷めてくれず目も醒めてくれない。
「銀時…」
耐えかねたように桂が世界に音を与えた、刹那に桂の背後の遠方から何か閃光のようなものが見えた。
敵!
零コンマ数秒ほどの時間に俺が思い浮かべることができたのは其のひと文字だけで、可能だった動きといえば桂を思い切り蹴り飛ばして
伏せさせることだけだった。
右肩にどうんと稲妻のような衝撃が走る。巨人にでも押された気分だ。
足が蹌踉めき体制が崩れた、立て直そうかとも思ったが此処は倒れた方が賢明だろうと、俺はど派手な音を立てて思い切り地面に自らの背を叩きつけた。
その際にばきり、という音。大方刺さった矢が折れたのだろう、と妙に客観的に考えることができた。
「ぎ んとき ___」
桂が四つん這いで此方へ慌てて這いずってきた。いけない、と思い髪を引き寄せ伏せさせる。
今は兎に角敵に目標は死んだと思わせてやるのが先決だ、と半ば本能の儘に行動した。
どくんどくんと心の臓の動悸に合わせて脈打つ灼ける痛みと、桂の荒い息づかいに耳をすませて時を待つ。
幸いにも、もう矢を射ってくる様子はなかった。
「ぎんとき、ぎんとき……!!」
拍を置いて、桂が俺の上に覆い被さる。桂の酷く恐ろしげな視線を追って、この時初めて自身が受けた傷を見た。
深々と弓矢は刺さり、見た目はあまり痛くなさそうだな、なんて考えるが実際は不本意に開けられた穴から鮮やかな朱が
じわじわと其れ相応の痛みを以てして拡がり白装束を染めている。
矢張り血の色は白に映える。綺麗だ、と鈍い痛みの淵で想った。
「何で、」
ひどい顔をした桂(此奴が射られたみたいだ)が言いかけた言葉を呑み込んだ。
桂は直ぐに医療班の事務的な顔を造り_実際うまくいってはいなかったが_徐に立ち上がってから俺の左側に廻り、負傷していない方の肩を抱え上げて、
「あっちへ移動するぞ。また敵襲が来るやもしれぬ」
無機質なよく通る声で宣言し、半ば引きずる形で移動を開始した。
桂の云うあっちとは何処なのか朦朧としてわからなかったが、直ぐに桂の歩は止まったので本当に微々たる移動だったのだなぁと理解する。
仰向けに寝かされた柔らかい西洋の寝具のような盛り上がりは、なるほど屍の積み重なった山であった。
目線をちらと隣にやると項垂れた髷が見える。見知った顔かと思い巡らせる。
どうしたって俺はこんなどうでもいい考察ばかりをしているのか知れない、痛みはじくじくと激しさを増して脂汗が滲んできてこんなにも気分が悪いというのに。
いまだ矢の残る肩口の傷は沸騰しそうに熱いのに身体の内側はどんどん冷え込んで寒さすら感じるほどだ。
寒さとは即ち死を連想させるものなのに、俺の考えるのは仲間への伝言でも今までの自分の生き様の是非でもなく、
屍が知り合いかどうかとかあああそこから来たのかと自分の夥しいほどの血痕を見てとった移動距離とかだった。
「気をしっかり持て、白夜叉」
桂は厳かな、一片の恐怖も見受けられない凛とした表情で俺を見据えて、数回頬をぺちぺちと叩いた。
「…だーいじょうぶだって」
軽口を叩いたつもりが全くそう聞こえず、虚勢を張ろうと藻掻いているのが自分<でも分かった。
其れを聞くと桂はちょっと哀しそうな表情をして、だがすぐに元の表情に戻った。
「手当を。痛むぞ」
そう云うと徐に跨り(セックスのときみたいだ)、無いに等しい彼の全体重をのし掛けてからその存在を誇示している細い杭を両の手でしっかり握った。
「…痛そ」
「……舌を噛むなよ」
桂の手に力が入ったかと思うと、めりめりと筋肉が裂ける音がして脳天に激痛が疾走した。
ぐああああと狂ったように叫ぶ自分の声が野獣のようだと思う。
目は開けているはずなのに何も見えなくなった。腕だけは思い切り桂を押し返すが華奢な筈の身体の軸はぶれることはない。
ほとんど執念のように一心に矢を抜いている。
そして次ぎに地獄の底から見上げたのは桂の真っ白な首で、俺はためらいもせずに其処に思い切り噛み付いた。
うぐう、と桂は呻いたがけして矢を抜く力を緩めなかった。痛みに比例させて俺は噛力を強くした。
矢が抜けるのと、桂の首の甘皮が引きちぎられるのは、ほぼ同時だった。
ああっ、という桂の悲鳴じみただがどこか甘みを帯びた声。(何故か支配感)
口内に鉄の味が拡がり、皮膚らしき繊維が舌に絡みつく。肩口の痛みは余韻を残すようにどくんどくんどくんと脈打ちながら痛み
まるで生き物でも寄生しているようだ。
桂は首もとを抑えながらも尚処置を続ける。
俺の赤い白羽織をはだけさせて、更に甲冑の下から覗く同じように赤い白装束を豪快に引きちぎって傷跡を露わにさせた。
外気が触れてまた種類の違う痛みがもたらされる。
「毒は塗られていないようだな」
「…ヅラに強姦されるみてー」
「黙っておけ」
云うが早いか、桂は痛みの中枢にその乾いた唇を寄せて血を吸い上げた。
そして地面に吐き捨てる。それを繰り返す。
水も消毒薬も包帯もない状態で、満足な止血はこれぐらいといったものか。
それにしても野性的な行為に、俺は痛みの中に微かな快楽を見いだした。
桂の口元が顎が咽がみるみる赤く染まっていく。
ともすれば此奴に喰われているようにも見え、反面口淫をされているようにも見えた。
白に赤はよく映えると先程も過ぎった思考にまたも侵される。
桂の陶器のように滑らかな白い肌が夜叉の穢れた血液の朱で汚されていく。
そのさまに異常なまでのエロティシズムを感じ、時折口元を手で拭ったりこれまた真っ赤な舌先で唇を
舐めたりする桂の仕草に際限なしに欲情した。
激しい鈍痛に思考も感覚も支配されて、本当にこのまま精神までも持っていかれそうだった。
それなのに、負傷していない腕がそろりと一心不乱に血を吸い出す桂の頬に触れようと伸ばされる。
俺は何をしようというのか?
微か未だ感覚を失っていない指先が、桂の不気味に柔らかい頬に触れる。
一見すると伸ばされた手は救いを求めているように見えて、無様だった。
桂が顔を上げる。見上げる瞳はもう隠しようもないほど哀切に満ちていた。
その瞳が更に俺にえもいわれぬ感情を呼び起こす。目の前にいる男を引き寄せるだけの何気ない行為に、渾身の力を振り絞った。
口唇。己の血液の臭いがした。
軽く触れて、余白を置いてどちらからともなく口付けを再開する。
桂の口内に忍び入ると、今度こそ不味い鉄の味が広がって吐き気がした。
是が最期の接吻というやつか?そんなことを恐らく互いに思いながら舌を絡めた。
その間にも俺は下部に禍々しい熱の膨張を感じ、是が最期でも構うもんか、と思うまでに至った。
およそ濃い接吻のさなかに考えることの内で、最低の部類に入るような思考だと我ながら思う。
ほとんど血の味がしなくなった頃に、唇を離した。結構な時間を費やしたようで(時間的感覚などあろうものか!)
桂の瞳はそれなりに潤んでいたし、薄い形のいい唇も唾液で濡れて血とは違った綺麗な赤に染まっていた。
「……ぎ、」
桂が俺の名を言いかけたところで、ぐるりと身体を反転させて桂を組み敷く形をとった。
無論一連の動作には想像を絶する痛みが伴ったのだが、不思議とこれで仕舞いだと思えばすんなりと身体は動いて呉れた。
人間というのが単純なのか、それとも俺がそうであるのか。
とにもかくにも、俺の下半身の疼きはひどいものだった。
死にかけているのに勃起している。そのことが何だかとても可笑しくて、だから実際に笑った。
予想だにしない体制を怪我人から強いられた桂は目を白黒させて、眉根をぎゅっと寄せた。
「…ぎん、とき…?なにを…する、気だ」
呼吸は荒い。怯えているのか。
しかし今の状況では怯えるのも仕方がないことなんだろうなぁ夥しい量の血液を滴らせながら可笑しそうにくつくつと笑っている
化け物みたいな男に組み敷かれれば、地獄もかいま見えるさ。
俺は桂の問いかけには答えず、手始めに襟を力任せに引き裂いた。甲冑が邪魔で上半身全てを露わにさせることはできないが、
それでも痩せぎすの鎖骨は拝むことができた。
其処に文字通り噛み付くと、ひ、と咽の鳴る音が頭上から聞こえた。
「ぎん、何、い、いやだ、ッ」
震える桂の声は更に情欲を煽ったが黙らせるのも恐怖心を増幅させるのも億劫だった。
余計な体力は消耗したくない、ただでさえもう大分失血して頭がぐらぐらしているのだから。
肩や咽に噛み付きながら袴も何とか動かせる方の腕で引きずり下ろす。
足をじたばたさせるのでやりづらいことこの上ないが、どうにかなりそうだ。
「や、め、」
桂の萎えた中心を握りこんで、熟知した部分を等閑に刺激していく。
こんなことすっとばして早く自分の欲をどうにかしたかったが、ある程度緩和させないと絶対に挿入は不可能なことは容易に想像できた。
「、ッ、やめろ、やめて、頼むッ」
懇願など。今の俺に通用すると思うてか。
桂には悪いが、今の俺には自分の欲をどう処理して果てるかという事にのみ興味がある。
だから此奴の気が狂おうが最悪死んでしまおうが、どうだっていいと思ってしまう、自分がいた。
全てを着実に迫り来る死の所為にしてしまえば、どんなエゴも許される。俺は地獄へは堕ちないだろう。
(そもそも此処よりひどい地獄があるのだろうか)
桂は身体的な快楽に生理上反応しながらも、深手を負った人間には辛い力で俺を押し返してくる。
流石にやりづらく、厄介だと感じたので一旦手を止めて、桂の頭の鉢巻を取り払い、今度こそ全ての体力を使い果たす勢いで桂の両腕を束ね
頭上に固定して拘束した。
存外にも火事場の馬鹿力が出てくれたらしく、桂は抵抗の余地を与えられなかった。
ただその黒いまなじりを恐怖に見開いて、涙をしっかりと浮かべている。
憎悪とも畏怖ともつくその視線に毒されて、ぞくりと背が粟立つのを感じていた。
今にも意識が飛んでしまいそうだったが、ほぼ執念で俺は桂の後孔に唾液で濡らした指を一気に二本突っ込んだ。
「ひ…!い、たいッ」
どろりと血液があふれ出し、温い感覚に包まれた。どうやら無理がありすぎたらしい。
だが此処で引き返す気にもなれず、構わず自分を受け入れさせるためだけの孔を広げた。
「い、あああやめてぎん、と、」
皮肉にも血が潤滑油代わりになってくれたようで、かなり早い段階で締まりが緩くなった。
それを見計らい指を思い切り引き抜き、(悲鳴が聞こえた)、俺は死にかけている身体の生の塊を取り出した。
是は生きたいという足掻きなのだろうか、だけど俺はこのセックスを最期に死ぬ覚悟がある、いや寧ろこの男の中で果てたいとすら願っているのに、
この膨張した雄は一体?
ある矛盾が生じている、まあどうでもいいことなのだが、おれは今から一番生と密接した行為に耽るのにそれが原因で死んでしまうのは
おかしなことだと思った。
いつの間にか、桂の最奥に到達していた。無意識に毎晩のように繰り返されてきた順序を追っていたらしい。慣れとは得てして怖いものだ。
「う、あ…抜け…!」
抜け、と命じる桂の涙に濡れた形相はすさまじく歪んでいて、そこには確固たる憎しみが存在していた。
何故それがこんなにも気分がいいのかはよくわからない。
桂の男目にも美しい顔がぐしゃぐしゃになっているということが、身体の奥底を灼くようだった。
そうして、俺は狂ったように腰を打ち付けるのだ。これが終われば俺は息絶えるだろう。
だがそんなことはどうでもいいことに思えて、いっそむごたらしい死に方をしてやれとやけっぱちを起こしかけていることにも気づく。
肩からの血が律動に合わせて踊るように桂の顔や咽もと、着物にびちゃびちゃと模様を付けていく。
次々に桂の白い肌に赤い斑点が出来ていくのが面白かった。
子供のような気分だ。
桂が身体の下で苦しそうに呻いているのを聞きながら俺は辺りの屍体の山をぼおっと見回していた。
折り重なった屍。もうただの固形物でしかない屍。光の宿らぬ幾千の瞳に、見られている。
この世界で生きているのはもう桂だけだな、と感じた。
不意に、傷口にぴりりと痛み。
「ん、ぐ、ッう、ごく、な…!」
血を、飲んでいた。
せめてもの止血のつもりであろう。
此奴はまだ懲りずに俺を生かそうというのか?
お前の中で死んでやろうというのに、拒否するのか?
どうして勝手なことをするのだろう。死ぬときぐらいお前は俺の玩具でいてくれたっていいじゃないか。
お前がケツの穴から精液だろうが血液だろうが垂れ流したっててめぇは死なねぇじゃねぇか、俺は死ぬんだ、死ぬんだよわかんねえかなあ、
余計なことすんじゃねえよしっかり喘げ狂い泣け懇願しろ!恐怖にひれ伏して一生俺のことを忘れるんじゃねえ。それが厭なら死んでくれよ俺と一緒に。
生かそうとか考えられても困るんだよ、何でそんなことすんだよ。
(…ムカつくねぇ)
「うああああああああ、ああ、あ!!!」
「うるさいよ、ヅラ」
先刻噛み千切った首もとに指を突っ込んで中を掻き回すと、新しい鮮血が流れ落ちて地面を染めた。
「死に、たく、ない?」
「いやだあ、あ、こんな、の、いやだ、いやだ、白夜叉ああああっ」
「おまえ、きもちわるい」
尚も腰を動かしながら生に執着する桂を心底気持ちの悪いものと感じて、また吐きそうになった。
ならば俺は死に神にでもなるつもりだろうか、死とは醜いものだというのは、生に縋ろうとする人間の姿が浮き彫りにされるからなのだ。
だけど生を味わうために死を選ぶ俺はどうなんだろう、いったい美しいんだろうか。
心も血管も果ては性器まで夜叉となったか。是は他殺という名に於いての自殺であり殺人なのか。庇った相手を殺すだなんて、矛盾極まりない。
桂に生きていて欲しいのか死んで欲しいのかもわからない。
ただもっと泣けばいいのに、と夜叉にめちゃくちゃにされた血まみれの桂を見て、そしてその隣の屍の項の青さを見た。
もう一度桂の顔を覗くとその項の青と酷似していて、ああもう此処にいるのは死人ばかりだねぇと思うと、自分が完璧な世界の創造主になった心地がした。
登り詰めてくる絶頂感と繰り返されるぜいぜいという桂の呼吸音を感じながら、無数の屍たちの冥福を狂気の国の王になった今に、初めて祈った。
2年前ぐらいに書いたくず文に、何と神絵師アオイさまがイ、イイイイメージ画をくださった。
たぶんこれは死にフラグである。ほんとにありがとうございます…!!このページだけやたら豪華