そうだ、一体誰が俺とお前を咎めることなど出来るだろう。誰が俺とお前を蔑めるだろう。
其んな莫迦なことどんなお偉いさんにも許されてはならない、勿論当事者にも、つまり俺にも、お前にもだ。
俺達はこうあって然るべきなんだよ。それなのにお前はいつだって少しだけ罪悪に苛まれたような表情をする。喩えるなら初めて万引きしたときの中学生とか。
対して俺は置いてきぼりをくらわされたような想いがする。お前を抱いたあとはいつだって、どうにかして俺の身体とお前の身体の空間を埋めようと藻掻いた
残骸の中でひとり、うずくまりたくなるぐらいの孤独感に襲われるんだ、まだお前には云ったことないけど。
別個の個体であることには喜びもあるけれど、同時に絶望もするんだ。
だってお前には俺が何を考えているかなんて知る由もないでしょうよ。当然ながら俺も然別。
俺たちはセックスする度に孤独になっていく。男同士だからとか、そういうのってあんまり関係ない。お前という人間の所為なのだと想う。
「あ、あ、痛」
「我慢」
そう、本当は判っているんだ。こんなことに意味とか、ほんとはあまりない。
意味を見いだそうとしてこういうこと何度も懲りずに繰り返しているんだって。
だって意味がないとかそういうこと、あんま想いたくないでしょ、俺もお前も。
傷を舐め合っているとか、聞こえはいいけど結構醜くて、うんざりもする。
「うああッ、あ、」
桂の貌は赤く染まっていて綺麗だけど、下を見たら俺が食い込んでいて正直ゾッとする光景が広がっている。
いいよな桂は、汚いもんなんて見なくて済むんだもん。
「めちゃくちゃ食い込んでる」
「…普通云うかそういうこと」
普通って。こういう状況がまず普通じゃないし。普通の人間の手はね、毎日血で赤黒く染まって風呂に入っても落ちないなんてことはまずないの。
此の手には敵の血も仲間の血も混在している。だから落ちないのかもしれない。
腰を掴んで揺らすと、泣きそうな貌をして半開きの口からまた死にたくなるような恥ずかしい声。此録音して聞かせたらマジで桂切腹するだろうな。
この特殊な、浅い靄のかかったような不気味な膜の中でだからこそ桂は喘ぐんだ。
其れはやっぱり桂は、俺に抱かれることをあんまり良いことだとは思ってないからだな。 ああ、何かそう想うとむかむかしてきた。腰がぶっ壊れるんじゃねえかってほどに激しく叩きつけてやると、桂はいよいよ狂ったように叫ぶ。
でもさあ、お前が幾ら罪悪感に見舞われたとしても、例えば俺が明日戦場でばっさーって斬られて死んじまったらお前、困るよな?
あ、でもそしたら他の相手探すのかな。よくわかんない。でもとりあえず困るよね?
桂のことって俺全然よく知らないんだけどさ、それだけは判るわ。
お前俺が居なくなったらどうなっちゃうの、やべーんじゃない。これ自意識過剰とかじゃあなくてさ。
だからさ、離れるのとかはなしだ。お前も俺も死ぬのはなし。お互いマズいもんな。な、桂?
「ああッ、あ、も、出る、ッ」
「えー、早い」
桂は今もう快楽に没頭してるように思えるけど、俺みたいに全然違うこと考えてるかもしれない。 あ、でもちょっと待って、桂からしたら今の俺ってどう見えてるの?ていうか、お前俺のこと視てるの。何処に居るのおまえ。そんな虚ろな瞳してさ。
「んうぅッ…は、あぁ」
「もーちょい頑張ってー」
「も…ぉ無理だ…ッて」
腹に粘ついた液がかかったと想ったら其れは当然桂の精液だった。
俺がもうすぐ桂の腹の中に出そうとしているのと色も匂いも粘度も全く同じなのに、それでも違うものなんだ。 なんだかなぁ。嘘でも愛してるとか云っちゃえば楽なのかね。
喩えばお前が女だったら、とか実はよく考える。俺のガキでも孕んだらそれがしがらみになって、こういうどろどろした感情とか全部解決しそうなもんだけど。
そんなこと考えてるなんて知ったらお前、どうするよ。
ああもう、こんなことばっか考えてる俺ってどうなの。俺の脳味噌腐ってんの?
そういう思考力全部取り払えればいいのに。
「…ヤバ」
「ば、か、中に出すな、ッ」
セックスの度に変なこと考えちまうぐらいなら、もうやめればいいのに。桂を抱くことをやめればいい。
それでもまた明日には、お前の黒い髪が網膜にちらつくんだろう。
汗に塗れながら今度はもっと確固たる矛盾した意義を探すんだ。

ああ、いっそ誰かが嗤ってくれたら。





銀桂の間柄って単純な恋愛感情だけじゃすまないよね
もっ萌え!(うっさい)