白黒赤白黒赤白黒赤白黒赤、ともすればこの世にはその三つの色彩だけで構わない、しろくろあかしろくろあか。
今日も赤々と炎は上がり、冷たい白黒の死たちは灰へと生転し俺は未だ生きている。
喩えば人間も天人も煙草の灰と最期には同じに成って仕舞うとしたら、俺たちは何が為戦うのであろう。
だけれどもかようなことを言い出しても俺は殺戮を止めはしない。
戦場で飯を喰い排泄をするということは左様であって然り。鬼で在り続けることに非難をされる謂われはない。
違う、俺が鬼で在り続けられる根本的な理由は、置かれた状況の所為ではない。そんなもの只の言い訳に過ぎない。
俺はお前の為に鬼で在り続ける。
白が黒の為に白で在り続けられるように、目映いばかりの色彩たちから蚊帳の外へ放り出されても、己が存在を否定せず寧ろ誇示していけるように。
俺が生きているのは、お前に認められているからなのだよ、桂。
俺が強く強く在り続けるのは、もういっそお前の為であるといって過言ではなし。
じゃなきゃどうして、こんな肥だめみたいな死体置き場に俺が居るものか。
精神道徳利害或いは士道と云った尤もらしい理由なぞお前の為に捨てよう。
殺し合うことに理由を求めて仕舞えば犬死にも同然とは思わないか?
お前が俺の唯一無二の絶対的理由になればいい。俺はお前の忠犬となればいい。
命令してくれ、人間性など殺して仕舞えと。其の理由を支柱にして、騒ぎ踊り喚起する血潮を存分に味わおう。
お前の命じるが儘に敵を殺し彼らの不味い肉を喰らう。
日本国のためにだとか、侍の威厳のためにだとか、そんなことはどうでもいい。
お前の目的は左様であったとしても俺にはモラリティやデモクラシィの為に供身する如何にも近代的な考え方は性に合わない。
暴れる為の唯一つだけの理由。其れがお前。
お前は美しい。悪夢の中に現れる一筋の現実のように、神々しく黒く在る。
俺の対極に在りながら誰よりも近くに在る人である。人間と鬼の境目で藻掻きながら平静を纏い過ぎる戦士である。
俺がお前を求める意味が分かるだろう?美を組み敷くその刹那の高揚ときたら!
お前の中に出入りしながら俺の精神は全てお前に侵されていく。
酒なんぞよりももっと中毒性のきつい、桂、お前という存在。鬼は増幅する。
其の白く滑らかな両手に愛撫され、凛とした声で巻き起こされる俺の大嫌いな祖国のためだ死んだ仲間のためだ志のためだとかいう鬱陶しい言葉の嵐に巻かれ、
俺の中のヒューマニティは朽ちていく。矛盾を嘆くかい主よ。犬は時として牙を剥く。そして犬は狼と成る。遂に狼は鬼と成る。
頭のいいお前なら気付いているだろう、俺がお前に命じろと命じさせているのだと。
矢張り満ち満ちていくエゴイズム。それでも声を大にして言おう、俺はお前を愛している。
愛情と云う凡そ誰も批判しえない虚構の上の薄氷を踏んでいるのは承知しているが、結局のところ初めから俺自身が殺戮を望んでいるということを、
認めたくはないのだよ。
本当は、白が黒のためにあるのではなく、白が在って初めて黒は色彩として認識される。
支配し合っているかのように見せかけて、実のところはいつだって黒が蹂躙されている。
お前は俺の対極。背反であり、一体であり、対象であり、下僕である。
それでも今日も、お前の犬の振りをする。俺たちの世界を回すために。
この薄汚れた単色の世界。臓物と砂埃、神の居ぬ台座、信仰のない卍、エラの谷底。
この眼に視える色は最初から只の三つだけ、白黒赤白黒赤白黒赤白黒赤白黒赤白黒赤
スランプのときなんてこんなもんですよ