凍り付いたようなタイルの石目だけが羅列する。水音、湯気。ここでは何もかもが滞っている。
俺の肌は湯を吸っていく、反面、空気はどんどん錆び付いていく。彎曲した沈黙が耳に痛いほど。
湯の中の俺の素肌は透明で、不気味だ。
掃除の行き届いていない床から目を背けつつ、小さな排水溝に絡む長い髪に目を向ける。
俺の銀髪からは想像もつかないような要素で構成されている其れは例に洩れず水と相性が悪い。
まるで呪いか何かのようにゆらゆらと、誘うかのように俺を手招く。
白髪の俺は揺らぐそいつを温かな湯の中から覗く。少しの懐かしみ。昨日への後悔。
何故もう少し穏やかに諭せなかったのか。危険なことはするな時代は変わったんだ。
きけんなことはするなじだいはかわったんだ。たったそれだけの言葉に音を与えてやるだけなのに。
生傷の増えていく細い体躯を組み敷くのは、どことなく気が引ける。__ああ、それが俺のエゴイズムだと
いうことは承知している
死ねば魂は永遠に一緒に在る、なんて戯言だが、其の保証があるのならば若い俺達はとっくの昔にそうしていただろう。
極楽の地で平穏無事に暮らせる保証があるのならば刹那の激痛など容易かった。湯のような世界でたゆたって呼吸すらせずに生き
ていけるのなら、俺と彼奴だけでなく、沢山の人間が同じ道を選ぶ筈なのだ。
だが現実は。ぱしゃり、水の表面を叩くと魚の跳ねる音がする。護るべきものを護って生きていく現実がある。
この浴室の外にはその現実が絨毯のように敷きつめられている。
俺とお前に魂の休息を。もういい加減に。湯も冷めはじめた。
今、無性に彼奴の実像に触れたくなった。俺のこのふやけた脳味噌の中から溢れ出してくればいい、のに、現実は。
痕跡だけが炯々と汚い床の上で光っている。
くすんだ硝子越しに長い髪の、幽霊のような男の姿を求めてしまう、ぬるま湯の中の午前二時。
どうも私の坂田は女々しいな 女々しい+DVってもう
最低だよねこの男